代表挨拶

本団体は、異なる立場や背景をもつ三名によって運営されています。ここでは、それぞれから皆さまへのご挨拶をお届けします。

私はこれまで、海外で物理学を学び、研究の世界に身を置いてきました。科学の探究を通して感じてきたのは、「理解しようとする」という営みの奥深さです。

私たち人類は、この宇宙の約95%をいまだ理解できていません。わからないものがあるのは、むしろ自然なことです。理解し難い現象について考え、考え抜いてきた先人たちのおかげで、今の科学があります。しかし、社会はしばしばその姿勢を忘れてしまいがちです。

未だ未解明な部分が多い重症筋無力症(MG)という疾患を通して見えてくるのは、医療が「平均的な患者像」に合わせて設計されており、その枠からこぼれ落ちる声が多いという現実です。それはMGに限らず、あらゆる慢性疾患や障がいに共通する課題でもあります。

日々向き合う医療従事者にとっても、理解し難いMG症状が少なくありません。それを「MGではない」「MGと無関係」とするのか、あるいは理解しようと一歩踏み込んで考えるのか。その小さな違いが、未来の医療に大きな変化をもたらします。

科学の世界では、まさにそうした一歩が新しい発見を生み出してきました。積み重ねが進めば、やがて理解できなかった現象も少しずつ明らかになっていきます。医療や科学は、データや理論の積み重ねの上に成り立っていますが、その原点にはいつも「個の経験」がありました。「自分の知らないもの以外認めない」や「見たらわかる」という姿勢を持ってしまうと、医学の発展を阻んでしまい、科学的でもなくなってしまいます。

研究者として、また社会の一員として、私は「個の経験」を無数の声としてつなげ、そこから学びを生み出す仕組みをつくりたいと考えています。重症筋無力症かけはし基金は、患者・医療従事者・研究者・社会が互いに学び合い、支え合う新しい関係を築くための“かけはし”です。

この活動を通して、先人たちが築いてきた医療を、みんなでさらにより良いものへと育て、次の世代へとつなげていくことを願っています。皆さまの温かいご理解とご支援を心よりお願い申し上げます。

2025年11月17日

私は、重症筋無力症(MG)の患者として日々を過ごす中で、医療従事者とのあいだに存在する「コミュニケーションの壁」を痛感してきました。「動き始めは大丈夫だが、動き続けることで疲労が増していく」「複視によって慢性的な吐き気が生じる」など、MGの症状には一見して理解されにくいものや、医学書には記されていない二次的なものが少なくありません。また、患者自身もその複雑な症状を的確に伝えることが難しく、私自身も原因の特定までに時間を要した経験があります。うまく伝えられないことで誤解が重なると、患者は次第に言葉を失い、我慢するようになり、やがては「症状を伝えること」そのものに怖さを感じるようになります。

さらに、この病気の“見えにくさ”は、社会の中で理解を得る難しさや孤独感にもつながっていきます。私自身もそのような時期を過ごしましたが、今は、私の言葉に真摯に耳を傾け、共に考えてくださる先生との出会いにより、少しずつ「伝えることへの怖さ」から解放されました。諦めずに自分の症状を言葉にできるようになった経験は、患者と医療者が相互に理解し合うことの尊さを教えてくれました

とても苦しい日々を過ごしましたが、同じような経験をしている患者は決して少なくありません。患者同士が集まると、多くの方が似た体験を語ります。インターネット上のMGコミュニティにも、同様の声が数多く寄せられています。しかし、これらの声を体系的に扱った社会学的・医学的な調査はほとんど存在せず、現代の患者の声を反映した統計データもありません。これは、私たちの声が存在しないのではなく、まだ十分に医療現場や学界に届いていないという現実を示しています。

このような患者側の「諦め」と医療・社会の「誤解」から生じる不幸なギャップを埋め、“見えない苦しみ”を解決の第一歩として可視化していきたい。この切実な思いこそが、患者の声を医療現場へ届けることを目的とした本基金設立の原動力となりました。

私たち設立準備メンバーの共通の願いは、MG患者と医療従事者、そして社会をつなぐ「確かなかけはし」となることです。皆様におかれましても、私たちの活動にご理解とご賛同を賜り、温かいご支援とご協力を心よりお願い申し上げます。

2025年11月17日

私は20歳のころより、「瞼が下がる」「呼吸が苦しくなる」といった症状に悩まされ、いくつもの病院を受診してきました。MGは早期の診断と治療により症状の進行抑制や長期予後の改善が期待されるため、早期発見が重要な疾患です。

しかし、私が重症筋無力症(MG)と診断されたのは、それから10年後の30歳の時でした。地元から離れた東京の病院に転院し、検査と入院の末に診断に至った頃には、症状はすでに全身へ広がっていました。診断がつくまでの20代は、思うように動かない体に対して「精神的な問題」と扱われ、自信を失い続ける日々でした。その中で留年や休学を経験しながらも大学院に進学し、大好きな合気道を続けてきました。困難な状況で取り組んできたことは今でも自信につながっていますが、私と同じような経験をする人はできる限り減らしたいと強く感じています。

診断が遅れた背景には、「地方における医療資源や情報の格差」「MGの中でも少数派である抗体陰性型」など、いくつかの要因が重なっていました。その中で、医療者が理解しているMGの症状と、患者が実際に抱える困難が必ずしも一致していないことを実感してきました。神経筋接合部の代表的疾患として医学的知識は広く知られている一方で、非典型例や診断に至っていない患者の訴えは、「診断の枠外」として扱われ、適切な理解や支援につながりにくいと感じる場面もありました。こうした経験から、患者の経験や思いが適切に医療や社会に届けられる仕組みが必要だと考えています。その思いに共感した仲間とともに、本基金の設立を志すこととなりました。

病は、誰にとっても無縁ではない共通の課題です。MGを含む指定難病だけでも、日本には110万人以上の患者がいるとされています。身近な10人を思い浮かべれば、その大切な人の、さらに大切な人の中に1人は難病の当事者がいる計算になります。そのご家族や周囲の人を含めれば、その輪はさらに広がります。私たちは自らが直面している重症筋無力症から啓発活動を始めますが、さまざまな立場の人が共通の課題に目を向ける機会になればと考えています。本基金がその一歩となり、より良い社会の実現につながることを願っています。

2025年12月5日

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